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水戸地方裁判所 昭和58年(ワ)15号 判決

原告

松本むた

右訴訟代理人

小野孝徳

被告

尾幡清一

右訴訟代理人

岡田豊松

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

1  水戸地方裁判所昭和五二年(ケ)第一〇四号不動産競売事件について昭和五八年一月一〇日作成された別紙配当表中、順位二番以下の原告及び被告に交付すべき金額を削除し、順位二番として、原告に対する交付金四五一万円(損害金)、順位三番として、同金四一万一六四〇円(元本の内)とすることにそれぞれ変更する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四六年二月一七日、訴外笹目干城(以下、笹目という。)に対し、金二〇〇万円を、弁済期間同年三月一六日、利息年一割二分、損害金日歩金八銭二厘の約定で貸し渡し、前同日、訴外鬼沢直美(以下、鬼沢という。)との間で、担保の目的で同人所有の別紙物件目録記載の不動産(以下、本件不動産という。)について抵当権設定契約を締結し、水戸地方法務局小川出張所同年二月二八日受付第四九四号をもつて抵当権設定登記を経由した。

2  原告は、水戸地方裁判所に本件不動産につき抵当権実行を申立て、昭和五二年一〇月二一日、同裁判所同年(ケ)第一〇四号事件として、不動産競売手続の開始決定がされ、同五八年一月一〇日別紙配当表が作成された。

3  しかしながら、被告は配当要求債権者でないので、原告は配当期日に配当異議を述べた。

4  よつて、前記配当表中、被告に交付すべき金額欄を削除し、右配当表の順位二番を原告に対する交付金四五一万円(損害金)、順位三番を同金四一万一六四〇円(元本の内)とすることにそれぞれ変更することを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第一項の事実は不知

2  同第二項の事実は認める。

3  同第三項の主張は争う。

三  抗弁

1  被告及び訴外太田繁治両名は、昭和四八年六月二六日、訴外笹目くら及び鬼沢両名に対し、金二五〇万円を、弁済期日同年九月三〇日、利息年一割五分、損害金年三割の約定で貸し渡し、鬼沢は、前同日、被告に対し、本件不動産につき、右債務の支払いを担保するため、停止条件付所有権移転仮登記(以下、本件仮登記という。)をすることを承諾し、同年六月二八日水戸地方法務局小川出張所受付第三七〇六号をもつて、右仮登記を経由した。

2  被告の右権利は仮登記担保権であるから、競売裁判所にその旨の届出をすれば、競売手続に参加して配当を受けることができる。被告は昭和五二年一一月一一日債権届出をした。したがつて競売裁判所が作成した別紙配当表は正当である。

四  抗弁に対する認否並びに反論

1  抗弁第一項の事実は認める。

2  同第二項のうち被告が昭和五二年一一月一一日競売裁判所に債権届出をしたことは認め、その余は争う。

3  原告の反論

(一) 被告の本件仮登記は、条件付売買契約に基づくものであり、金銭債務を担保するための代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約等に基づく仮登記(担保仮登記)ではない。

(二) 被告の権利が仮登記担保権であるとしても、被告の本件仮登記は、昭和五三年六月二〇日法律第七八号による仮登記担保契約に関する法律施行以前の仮登記であるから、競売手続に参加し、登記要求することはできない。

(三) 仮に競売手続に参加しうるとしても、抵当権の優先弁済の範囲についての民法三七四条は、抵当権者と後順位仮登記担保権者との間には適用がない。なぜなら、民法三七四条は、抵当権者と後順位抵当権者との間の関係を整正するための規定であり、抵当権者と抵当権設定者、抵当不動産の第三取得者との間には適用されないと解されるところ、仮登記担保権者は、仮登記のみしか有しないという点で第三取得者より登記上弱い地位にあるものであるからである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一〈証拠〉によれば、請求原因第一項の事実(但し、原告、笹目間の金銭貸借の弁済期日は昭和四六年三月一五日である。)を認めることができる。右認定を覆すに足りる証拠はない。

請求原因第二項の事実は当事者間において争いがない。

二そこで被告の抗弁についてみるに、抗弁事実(但し、本件仮登記が仮登記担保権であることを除く。)は当事者間において争いがない(なお、笹目くら及び鬼沢は、契約の趣旨から、通常連帯債務者と解される。)。そして〈証拠〉を総合すれば、被告及び太田繁治は、昭和四六年六月二六日、連帯債務者の笹目くら及び鬼沢に対する金二五〇万円の貸金債権を担保する目的で、鬼沢所有の本件不動産を含む六筆の不動産について売買予約を締結し、同人らに債務不履行があつたときは被告らにおいて右不動産を処分し、右売却代金から自己の債権の弁済を得ることができる旨を約し、かつ、同月二八日本件不動産について被告に対し本件仮登記を経由するに至つたものであることが認められる。そうすると右事実によれば、被告の本件不動産に対する本件仮登記はいわゆる仮登記担保権であると解するのが相当である。

三そこで被告が配当要求債権者になるかについて判断するに、最高裁昭和四九年一〇月二三日大法廷判決民集二八巻七号一四七三頁によれば「いわゆる仮登記担保権者は、民訴法六四八条四号(昭和五五年法律第四号・民事執行法附則第三号による改正以前のもの)又は競売法二七条四項四号(民事執行法附則第二号による廃止以前のもの)に基づき、当該権利が仮登記担保権であること及び被担保債権とその金額を明らかにして競売裁判所に届け出る方法により、目的不動産の競売手続に参加して配当を受けることができる。」とされており、仮登記担保権の有する債権担保たる実質に鑑みれば、当裁判所も、この理に従うのを相当と考える。昭和五五年一〇月一日から施行の仮登記担保契約に関する法律第一三条一項、第一七条一、二項は仮登記担保権者の優先弁済権並びに競売における配当(交付)債権者たる地位について規定しているが、これは前記大法廷判決の法理を確認し、これを明文化したものであるから、同法施行以前に設定された仮登記担保権といえども別異に解する理由はない。

原告は、被告が配当債権者となり得ないとして、まず被告の本件仮登記は、条件付売買契約に基づくものであり、金銭債務を担保するための代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約等に基づく仮登記ではないとの主張をするが、前記認定のとおり被告は鬼沢との間の金銭債務を担保する目的で所有権移転を目的とした売買予約を締結して仮登記をしたものであるから、原告の右主張は理由がない。

次に原告は、被告の本件仮登記は、前記仮登記担保契約に関する法律施行以前の仮登記であるから、競売手続に参加し、配当要求をすることができないと主張するが、前記判示の理由によつて採用できない。

更に原告は、抵当権の優先弁済の範囲についての民法三七四条は、抵当権者と後順位仮登記担保権者との間には適用がないと主張し、仮登記担保権者が仮登記のみしか有しないので、抵当不動産の第三取得者より登記上弱い地位にありながら、右法条の適用を受けないとされる抵当不動産の第三取得者より保護されることは不都合であることを理由とする。たしかに仮登記担保権者が担保設定者から仮登記に基づく所有権移転の本登記を受けたのちに先順位の抵当権が実行された場合には、民法三七四条の制限がなく、右抵当権者は最後の二年分の損害金のみならず、発生した全損害金についてもその配当(交付)が受けられることになるから、その権衡からいつて後順位の仮登記担保権者には、民法三七四条の適用がないとする余地もないのではない。しかしまた反面、競売手続が完了すれば抵当不動産上の負担である担保仮登記も抹消される運命にあるから(改正前の民事訴訟法七〇〇条一項二号)、他の後順位抵当権者と比較して仮登記担保権者の保護に欠ける結果となる。そうするならばむしろ仮登記担保権が債権確保のための手段である実質を注視して、民法三七四条の適用の関係においても抵当権者と同視して取扱い、仮登記担保権者が、任意に先順位の抵当権を引受けるつもりで担保仮登記に基づく所有権移転の本登記な経た場合には、抵当不動産の取得者としてその負担をすべて引受ける地位に甘んじたものとして取扱つてもなんら不都合はないと考えられるので、こと担保仮登記に関しては原告が前記指摘するような仮登記担保権者の地位を必要以上に保護する結果になるとの批難はあたらないといわねばならない。結局抵当権者と後順位仮登記担保権者との間においても、民法三七四条を適用し、抵当権者が優先弁済を受ける債権の範囲は、同条所定の範囲に限定すべきであると解するのが相当である。原告の前記主張は採用することができない。

そうすると、被告が仮登記担保権者として競売裁判所に債権の届出をした結果(右事実は当事者間に争いがない。)、同裁判所が被告を優先弁済請求権者として取扱い、民法三七四条を適用して別紙配当表を作成したことは適法である。被告の抗弁は理由がある。

四よつて、原告の請求は、失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (上村多平)

物件目録〈省略〉

配当表

順位

金 額

債権の種類

交付を受くべき者

二四四、三六〇円

競売費用

原告

一、一九七、二〇〇円

損害金

(二年分)

二、〇〇〇、〇〇〇円

元本

一、五〇〇、〇〇〇円

損害金

(二年分)

被告

二二四、四四〇円

元本の内

合計金五、一六六、〇〇〇円

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